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青いインク壺

 日々写真詩-『妖精・精霊・詩』

湿 度

 

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いつからあるのか 誰のものかわからぬ 古い時代の写真帖

袴姿で並ぶ

髪を上げ 鏡餅のように大きく結った女性たち

名前も 文字も書き込まれていない 枯葉のように乾いた写真たち

母は言った 前のめりな息で

 この人がそうじゃないかと思うの

 

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母は探していた

なぜか 探していた 精神が自分のものではなくなってからだ

いや

もしかすると ずっと探していたのかもしれないが 精神が自分のものでなくなったから口に出せるようになったのかもしれない

どれもすべて憶測

ほんとうは 母は

誰を

 

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実際は

私の母は 彼女の夫の母親を探していた 産みの母親を

 

私の父親である彼女の夫が 3歳のころに 隔離されたまま

幼い我が子を随分の間 抱くことも叶わずに亡くなった

彼女の夫の母親を探していた

結核をわずらい隔離された若い女性は

 

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知らずにいただろう

自分の夫に すでに相手がいたことを

 

私の母のどこに どう

何が訴えかけたのか 精神を持ち直したように見える彼女は

まるで 最大の秘密である 小路につながる木戸を見つけたかのように期待に満ちた声で

 

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そして 一枚の乾いた褐色の写真のうえに 人差し指を置いた

 

 このひと

 

打ち明けた母は

私に何を期待しただろうか

 

すべては憶測に過ぎないのに 指をさされた人物は まるで

発見されたかのように 色味が増し浮き上がる

 

母の姑 父の継母 祖父の相手

呼び名はいかようにも


その老女は

精神が自分のものではなくなった私の母を

有名なお祓いにつれてゆこうとわざわざ訪ねてきた

老女のその目は何かを怖れて震えていた

老女は 長きにわたり 怖れと共存し 生き

怖れは現実となったのだと 足の痛みを訴えるのだった

 

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すべての女は

老女であっても皆 誰かの娘であると

その憶測の一枚の乾いた写真が見せた

交差する何人もの人間の人生

怖れに支配されて生きた老女の

家に帰りたい 姉さん母さんのいる家に

涙の声が

老女と 母と 母の夫の母親と私を重ねる

 

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母は精神の平穏をとりもどした

父の父親は随分以前に亡くなり 父の育ての母はなくなり

もう だれも あの乾いた記憶の秘密に触れることはない

けれどなぜだろうか

わたしの中には 乾いた一枚の写真に

不思議と湿度をあたえている場所があるのだ

 

 

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(この『湿度』の詩は、Twitterで連続写真詩として投稿したものです。

この詩に使われている写真はそれぞれ、一番先頭の1枚の写真が元と

なっており、その写真のどこかに焦点を当てて切り取ったものです。)